「出版業界にはどんな職種があるのだろう」
「出版業界の今後の展望は明るいの?」
就職活動の業界選びをするときに、このような疑問を抱えている人もいるでしょう。
出版業界に華やかなイメージを持つ人もいますが、想像以上に地道な作業を経て、1つの出版物が完成します。入社後のミスマッチを防ぐために、出版業界の仕事内容や職種を把握し、どのような人に向いているか知っておくことが大切です。
出版業界とは
出版業界は、大きく分けると「出版社」「出版取次」「書店」の3つに分類されます。また出版社が編集業務を外注する「編集プロダクション」も、出版業界を語る上では欠かせない存在です。それぞれの関係をイメージ図で表すと以下の通りです。
※資料:offerbox
出版社
書籍や雑誌などの出版物の企画・製作・販売促進をおこないます。出版物の企画・製作の際は一般的に、編集者が本の製作・発行を管理し、校閲者が誤字脱字や誤った表現がないかチェックします。完成した出版物は営業が販売促進し、最終的に読者の手に届く流れです。
出版社はジャンルを問わずさまざまなコンテンツを扱う総合出版社と、経済や学習参考書などを扱う専門分野の出版社、小説などの文芸書をメインとした出版社に大別されます。
出版社は全国に約3,000社あるといわれており、半数以上が社員数4人以下の小規模企業です。
有名な総合出版社
・集英社
総合出版社として、漫画誌やファッション誌などの雑誌をはじめ、文庫、新書、写真集、辞典などさまざまな分野の出版物を手がけている企業です。「ONE PIECE」「鬼滅の刃」など有名漫画も多く誕生している「少年ジャンプ」、「non-no」「BAILA」などのファッション雑誌も有名な出版物として挙げられます。
・小学館
小学生を対象とした学習雑誌を発行したことから始まり、現在は小説や地図、辞典などの書籍、ファッション誌やコミック誌などの雑誌、コミックなどの出版を手がける総合出版社です。学習雑誌はもちろん、「名探偵コナン」や「ドラえもん」などの有名な漫画を発行し、「下町ロケット」や「謎解きはディナーのあとで」などドラマや映画化もされた小説も刊行しています。
・講談社
漫画誌やファッション誌などの雑誌、文庫などを取り扱う総合出版社です。有名な漫画としては「のだめカンタービレ」があり、実写化されたドラマ、映画も大ヒットし、文庫では「永遠の0」も映画化されています。
出版取次
出版取次は、出版社が製作した出版物を全国の書店に送り届ける役割を担うもので、「総合取次」「専門取次」「電子取次」の3つに分類できます。スマホやタブレットが浸透し、電子書籍の流通も増加していますが、電子書籍は出版社から送られてきたデータを書店に送る「電子取次」にあたります。
出版取次は全国に約100社ありますが、日本出版販売とトーハンの2社で市場シェアの8割を握っています。
出版取次は書籍を書店に届けるだけでなく、書店の売上データや市場動向を出版社、書店の双方に提供し、効率的な流通を促しています。また書店の販売促進を支援し、出版物の売上向上も出版取次の役目の1つです。
大手2大出版取次
書店
書店は出版物の販売が役割です。出版物の販売は下記のようにいくつかの種類に分かれます。
・店頭での販売
・大学、公共図書館への図書館図書や学術データベースの販売
・電子書籍の販売
街の書店のほかに、最近はAmazonなどのネット書店がイメージしやすいでしょう。またスマホやタブレットで本を読む電子書籍を扱う書店も増加しています。
有名な書店
・紀伊国屋書店
書籍のほか、文具、雑貨、CDなどを販売する店舗を国内外に展開、オンラインストアの運営のほか、全国およそ200の機関で大学図書館を中心とした図書館業務のアウトソーシングも手掛けている。
・丸善CHIホールディングス
平成22年2月1日に設立した共同持株会社である。大日本印刷株式会社の連結子会社で、社名の「CHI」は、ローマ字表記「知」を意味する。
編集プロダクション
編集プロダクションは出版社にかわり、出版物の企画や編集、製作を代行する業種です。なかには校正・校閲まで携わるケースもあります。
出版社との大きな違いは、自社で出版物の企画・立案をおこなうことはほとんどない点です。ライティングや各担当者との調整、校正・校閲のプロセスは出版社と大きく変わりありません。仮に出版物の企画・立案をおこなった場合にも、雑誌の発行元は出版社になります。
編集プロダクションの多くは10名未満で、主にディレクターと編集者が在籍しています。ライターやデザイナー、カメラマンが自社で準備できない場合は、フリーランスのクリエイターに依頼することも多いです。
市場規模
全国出版協会・出版科学研究所の出版月報によると、2023年1月〜12月の紙と電子を合計した出版市場規模は、1兆5,963億円であり、前年比2,1%減となりました。2020年から市場規模を拡大していましたが、直近2年は減少傾向となっています。
電子書籍の売上が着実に上昇している一方で、紙の出版物は下降傾向にあり、出版市場全体における電子書籍の占有率は3割に迫っています。
2021年の紙と電子の内訳に関しては、紙の出版物が前年比1,3%減の1兆2,080億円、電子書籍は前年比18,6%増の4,662億円と大幅に売り上げを伸ばしています。紙の出版物は、インターネットの浸透や活字離れから年々縮小傾向にあるため、電子書籍などの新しいビジネスの強化を多くの出版社が進めている特徴があります。
出版社の現状とトレンド
インターネットやSNSの浸透で活字離れが顕著
近年、インターネットやSNSの浸透により、若者の活字離れが進んでいます。理由として、本を読むよりも、動画を見たり、ゲームをしたりするなど娯楽の多様化により、時間の使い方がシフトしていることが大きな要因として挙げられます。
また、情報収集を書籍や雑誌でおこなう人が減っているため、紙媒体の販売部数減少に大きな影響を与えています。手軽に利用できるスマートフォンやタブレットを活用し、無料で求める情報をキャッチする時代になっているからです。
しかし、電子書籍に関しては年々売り上げが伸びており、出版不況は紙の出版物を中心に起きていると言えます。
返品率の負担が大きい
返品率の負担が大きいことも、紙媒体の苦戦を強いられている理由の一つです。出版物の流通の仕組みに「委託販売制度」というものがあり、出版社から預かった商品を書店が代理で販売する代わりに、売れ残った商品を返品することができます。
つまり、委託しても売れなかった書籍や雑誌は出版社に返品され、負担を出版社が請け負う制度です。
2019年の経済産業省の経済構造調査によると、平均返品率は書籍が32%、雑誌が40%と高い返品率を推移しています。返品されると売り上げが減少し、他にも配送費や倉庫代などの費用も必要になり赤字になってしまい、出版社の負担が大きくなっているといえます。
定額読み放題サービスやインターネット書店の運営
電子出版市場は、定額読み放題サービスやインターネット書店の運営が功を奏して着実に売り上げを伸ばしています。
定額読み放題サービスは、いわゆる本のサブスクリプションです。月額料金を払うことで、好きなだけ読書を楽しむことができます。たとえば、AmazonのKindle Unlimitedやめちゃコミックなどが一例として挙げられます。
手持ちのスマホやタブレットで、いつでもどこでも手軽にさまざまな種類の本が楽しめるため、人気が高まっています。
代表的な職種
編集者
本や雑誌など出版物の編集を担当する仕事です。具体的には書籍や記事の企画、取材・撮影ディレクション、校正など出版物製作の全工程に関わります。
編集者の仕事範囲は多岐に渡るため、さまざまな知識やスキルが求められます。記事の納品が遅れていれば、ライターや作家へ催促するのも重要な役割で、コミュニケーションスキルも重要です。担当する出版物の最終責任をとる重要な立場となります。
制作・校閲
制作は雑誌の企画や制作、外注対応や打ち合わせ、デザイン編集を担う仕事です。校閲は原稿に目を通し、事実と異なる点や矛盾する内容がないか確認し、誤字脱字や日本語表現の誤りをチェックします。校閲は出版物の正確性を高める役割といえます。制作・校閲は編集者が一貫して担当することもあれば、編集者以外が担当することもあります。
ライター
編集者の作った企画に基づいて原稿の執筆をおこないます。企画に目を通し、書籍やインターネットからリサーチをしたり、取材やインタビューをして必要な情報を得るのもライターの重要な仕事です。ときには簡単なデザインやイラスト作成、動画の編集をおこなう場面もあります。
社内に専属のライターを抱えていない場合は、フリーランスや編集プロダクションに所属するライターをアサインします。
フォトグラファー
フォトグラファーは雑誌などに掲載される写真を撮影する職種です。スタジオでの撮影をはじめ、インタビューやイベントなど外出して撮影をおこなうことも多いです。
ライターと同様に、社内に専属のフォトグラファーがいないケースもあります。その場合はフリーランスのフォトグラファーに依頼したり、編集プロダクションや撮影スタジオなどに所属するフォトグラファーをアサインします。
営業(広告営業・書店営業)
営業は大きく分けて広告営業と書店営業の2種類で、どちらも出版社に属しています。
雑誌に掲載する広告の広告主を探し、交渉・提案をおこなうのが広告営業です。収益に直接つながる重要な役割を担っています。書店営業は、出版取次や書店に対して自社の出版物をより多く発注してもらえるように働きかける仕事です。販促として著者のサイン会やトークショーの企画提案などをおこなう場合もあります。
広告宣伝
自社の出版物を多くの人に購入してもらうための企画を考え、実行まで担う職種です。具体的には以下のような役割を担います。
・プレスリリースによる告知
・PRイベントの企画・実施
・SNSを活用した宣伝
素晴らしい書籍でも読者に魅力を伝えなければ手に取ってもらえないため、広告宣伝は非常に重要な仕事です。なお、広告宣伝の専任者は少なく、編集者が兼任しているケースが多いです。
デジタル推進
既存のメディアのデジタル化を推し進める役割がデジタル推進です。全出版社におかれている職種ではないものの、書籍のデジタル化はどの企業も避けて通れないテーマです。デジタル推進職という名前ではなく、デジタル推進を主な業務とした営業企画や制作スタッフ、DX推進のポジションをおく企業が出てきています。
既存メディアのデジタル化、デジタル推進による収益化、紙の出版物との相乗効果を図る施策など、デジタルの知識に加えて経営的な視点が求められます。
事務(バックオフィス)
編集者や営業の仕事を支えるバックオフィスも重要な役割を担います。主に以下のような仕事があります。
経営企画:会社経営のための戦略立案と実行
総務:庶務や法務、経営管理などの一般事務
経理財務:企業の経理業務、資金調達などの財務業務
人事:採用計画作成や採用、人事制度の策定、人事評価
ほかの業界と同様に出版業界においても欠かすことができない重要な職種です。
出版社に就職する魅力
携わった雑誌や書籍を世に出すことができる
自身が考えた企画が通り、完成した雑誌や書籍が店頭に並んだときは、感動ややりがいを感じる瞬間です。
自身が手がけた書籍が多くの人の手に渡り、読者から良い反響があったり、ヒット作として有名になったりすると、多忙な日々の疲れも無くなるほどの大きな喜びを感じることができるでしょう。
また、編集の仕事だけでなく、営業の仕事でも自身が宣伝した商品が店頭に並び売れていく様子は感動する場面です。出版社のどの職種であっても、自社が発売した雑誌や書籍が売れることはとても嬉しいことであり、魅力を感じる点であるといえますね。
芸能人や著名人と働ける
本の著者、取材先の大企業の経営者、歌手、有名なスポーツ選手、海外のタレントなど、普通に生活していたら中々出会えない人達と一緒に仕事をする機会があります。
数多くの有名人と働けるチャンスがあるため、誰とでも適切なコミュニケーションを取れるようになっておく必要があります。また、話題も豊富な方が好まれるでしょう。
多種多様な職種の人から刺激をもらい、仕事への活力につなげたり、新しい人脈を構築したりすることができます。非日常的な経験を積む中で、さまざまな知識やスキルを身に付け働きながら人間力も磨いていける環境があるといえます。
出版社の留意点
仕事量が多い・長時間労働などで激務
1冊の本や雑誌を仕上げるための工数や作業量が膨大であり、決められた納期までに限られた人員で対応しなければならないことが理由として挙げられます。
たとえば、編集の仕事では、著者から原稿が上がってくるのを待つ必要があったり、資料探しや相談に乗ったりする時間がスケジュールに関係なく突発的に発生したりと、人とかかわる仕事である分、予期せぬ仕事が当然生じます。
特に締め切り前は業務量の多さから、連日残業になったり、会社に泊まり込みしたりする場合があるため、その点は覚悟をして就活を進めるようにしましょう。
就職倍率が高い
多くの学生が応募することに対して、採用枠が少ないことが倍率を非常に高くしています。
特に近年は、出版不況と言われており紙媒体の売上が減少しているため、それに伴い年々新しい採用枠が減っている現状があります。大手出版社でも10名〜15名、中小の出版社は1〜4名程度となっています。
たとえば、講談社の採用ホームページによると、2023年度は5145人の応募者に対して、27名の内定者であり、約190人に1人しか採用されないと計算することができます。
出版業界の年収は?
出版業界の年収は国などの調査にて出版社のデータはなく、職種や雇用形態によって異なります。
参考に求人ボックス給料ナビ掲載の平均給与を紹介します。
編集者:正社員平均年収 約498万円
ライター:正社員平均年収 約434万円
フォトグラファー:正社員平均年収 約363万円
また中途採用における書店営業職の想定年収は400~600万円が相場となっています。
上記は正社員の平均年収ですが、フリーランスで活躍する編集者やライター、フォトグラファーはそれ以上の収入を得ていることもあります。
まとめ
出版社は就職倍率が高く人気のある職業であるため、一朝一夕で就職準備ができるほど甘くはないことをお伝えしてきました。ただ、これまでに解説してきた内容を早めに取り組むことで、選考をパスできる可能性は格段に上がります。
今回解説した内容をもとに、出版社への理解を深め周りとの差をつけて内定を勝ち取っていきましょう。